椎間板ヘルニア
松波動物病院メディカルセンター
獣医師 枦山 裕美
背骨(脊椎)は椎骨と椎骨の間にある椎間板(ついかんばん)と呼ばれる軟骨でつながっています。椎間板は、中央のゼリー状の髄核を繊維輪が囲む構造をし、脊椎に加わる衝撃を吸収するクッションのような働きをします。
この椎間板が脊髄に向かって飛び出し、脊髄を圧迫する状態が椎間板ヘルニアです。(図)
椎間板ヘルニアには、2つのタイプがあります。
ハンセン1型椎間板ヘルニア
ダックスフンド、シーズー、ウェルシュコーギー、コッカースパニエル、ビーグル、ペキニーズ、フレンチブルドッグなど。
これらの犬種は、軟骨異栄養性犬種といって、軟骨の変性が起こりやすい体質を持っています。椎間板が変性を起こすと、中央のゼリー状の滑らかな構造は硬い物質に変化してしまいます。そうするとクッションのような働きが損なわれ、同時に周囲の繊維輪も弱くなります。このような状態の椎間板に力が加わると、繊維輪が破れ、中から髄核が飛び出し、脊髄を圧迫します。(図)
このタイプの多くは3~6歳までの間に急性に発症します。
ハンセン2型椎間板ヘルニア
ヨークシャーテリア、マルチーズ、パピヨン、プードル、ミニチュアピンシャー、ミニチュアシュナウザー、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーなど。
これらの犬種では椎間板が加齢に伴い変性を起こし、繊維輪が盛り上がり、脊髄を圧迫します。(図)
このタイプの椎間板ヘルニアの多くは成犬から老犬に多く起こり、慢性的に経過し悪化します。
症状
脊髄の圧迫の程度により、症状は、様々です。軽度であれば、「痛み」として症状にあらわれる程度ですが、圧迫が重度になると「麻痺」になります。
痛みの症状としては、体を触られるのを嫌がる、動こうとしない、震えている、段差の上り下り(階段、ソファーなど)をしたがらないなどといった形で多く見られます。
麻痺は、左右の後ろ足に力が入らない(左右両足ともおかしくなるのが特徴です)、足がもつれる、ナックリングといって足が裏返しになる(写真)、さらに重度では、完全に後ろ足が動かなくなり、自力による排便、排尿も困難になることがあります。
また、頸部のヘルニアの場合は、強い痛みが特徴ですが、四肢に麻痺がでることもあります。
診断
神経学的検査、レントゲン脊髄造影検査、CT検査などにより脊髄の圧迫部位や程度を調べます。CT検査では、どの程度の脊髄圧迫があるのか、判断することができます(写真)。
治療
軽度では、絶対安静と薬による内科療法も選択できますが、重度では、全身麻酔下で行う手術による外科療法が必要です。
症状をグレード分類し、内科治療にするのか外科手術が必要なのかを判断することができます。
また、外科手術後は、ワンちゃんでもリハビリを行います。さらなる悪化を防ぎ、できるかぎり歩行ができるよう、状態に合わせたメニューで無理なく行います。(写真)
内科療法 |
外科療法 |
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1度 |
成功率:100% | 回復までの時間:3週間 | 成功率:100% | 回復までの時間:記載なし |
2度 |
84% | 6週間 | 100% | 記載なし |
3度 |
100% | 9週間 | 95% | 1週間 |
4度 |
50% | 12週間 | 90% | 2.5週間 |
5度 |
7% | 記載なし | 50%(<48h) 6%(>48h) |
2週間 |
Davies and Sharp 1983 | Lineberger and Kornegay |