脳神経科について
当院の脳神経科では、椎間板ヘルニアやてんかん、そして脳腫瘍などいった脳神経病の内科的および外科的治療法を用いて取り組んでおります。また犬・猫の脳神経病の診断や治療を専門に研鑽を積んだ獣医師が診断機器を駆使し、また日本を代表する脳神経病の専門医とも連携をとって最新の医療情報を従来の知識と技術を取り入れながら脳神経病の診療を行っております(長屋動物医療センター/岐阜大学付属動物病院)。
脳神経科を受診されるワンちゃんネコちゃんでよく見られる症状
セ麻痺、発作、ふるえ、歩行異常、旋回、斜頸(首が傾く)、眼振(目が横や縦に揺れている)、疼痛等様々な症状が認められます。特に発作については全身に起こるもの(倒れて体を強ばらせてガタガタ震える)から部分的なものまで様々なものがあります。また上記症状は脳神経系疾患以外の疾患から起こる可能性があります。
脳神経科が実施する診断プロセスについて
- ①そもそも神経疾患?
- ②病変部位はどこ?
- ③原因は何?
以上の点を考えながら、検査を進めていきます。
DAMINIT-V分類を使用し原因をおおまかに分類していきます。
D | degenerative | 変性性 | 変性性脊髄症、ライソゾーム症など |
A | anomalous | 奇形性 | 水頭症、キアリ様奇形など |
M | metabolic | 代謝性 | 尿毒症、糖尿病、低血糖、肝性脳症など |
N | neoplastic | 腫瘍性 | 髄膜腫、グリオーマ、神経鞘腫 |
I | idiopathic immune inflammatory infectious |
特発性 免疫介在性 炎症性 感染性 |
脳炎、血管炎など |
T | traumatic toxic |
外傷性 中毒性 |
頭蓋骨・脊椎骨折 鉛中毒、有機リン中毒 |
V | vascular | 血管性 | 脳出血、脳梗塞 |
【スクリーニング検査】
神経学的検査
専用の検査シートを使用して当院では検査を行います。
- 観察(患者の状態を把握します)
意識状態、行動、姿勢、歩行 - 姿勢反応
(姿勢を維持するための反応があるか確認します)
プロプリオセプション、踏み直り反応、跳び直り反応等 - 脊髄反射(反射があるかどうか確認します)
膝蓋腱反射、引っ込め反射等 - 脳神経系検査(顔面を中心とした検査です)
顔面の左右対称性、眼瞼反射、瞳孔の対称性、対光反射、顔面知覚 - 痛覚検査(痛みに反応するか確認をします。)
【血液検査、尿検査】
- 患者の状態把握
- CT・MRI検査のための麻酔前検査
代謝性・中毒性の疾患がある場合は異常値が確認されます。
また特殊検査としてウィルス検査、免疫学的検査を行うこともあります。
【レントゲン検査、超音波検査】
- 外傷、骨折、骨の異常、腫瘍の確認
- 超音波検査では内臓の異常、水頭症の有無を確認します。
【CT・MRI検査】
頭部、脊髄の状態の把握に特化しており、神経系の診断では特に重要な検査となります。麻酔下の検査時に脊髄造影、脳脊髄液の検査も同時に実施することで状態把握のための材料としていきます。
✔ CT検査
- 当院で可能な検査です。
- CT検査には大きく分けて2種類あり、麻酔下・無麻酔下での検査があります。人間では無麻酔で可能な検査ですが、動物においては自発的に動かないようにするのは限界があり、基本は麻酔科での検査となります。
- とてもおとなしい患者や、病気により動けない患者、麻酔に耐えることが難しい患者等条件が揃えば無麻酔での検査を行うことが可能です。麻酔下での検査には精度で劣りますが、情報として得られるものも多く、実施することが多々あります。
- 水頭症、骨格異常、腫瘍(転移病巣の評価)、椎間板ヘルニア、内耳炎、内臓評価、門脈シャント等
✔ MRI検査
- MRI検査実施可能な病院を紹介させていただきます。(長屋獣医科病院等)
- 麻酔下での検査となります。
- 腫瘍、脳炎、血管梗塞、進行性脊髄軟化症等の判断のために行います。
脳神経系の代表的な疾患
- ①水頭症
- ②てんかん
- ③脳炎
- ④脳腫瘍
- ⑤椎間板ヘルニア
*以下に代表疾患を挙げています。ご参照下さい。
①水頭症
チワワ、トイ・プードル、ヨークシャー・テリア等で多く発症します。生まれつきのことが多いですが、後天性の原因としては腫瘍や脳炎等からも認められることがあります。脳脊髄液が増加してしまい、脳を圧迫することにより症状が出ます。超音波検査やCT検査にて脳室の拡張が確認できます。泉門の開放、斜視、発作、運動失調等の症状が出ます。
②てんかん
発作(全身性の症状を示し意識もなくなることもありますが、体の一部のみ症状があらわれるケースもあります)。腫瘍、代謝性、中毒性疾患を除外した結果、てんかんと診断することができます。多くの場合、血液検査、CT・MRI検査を実施して総合的に診断していきます。
③前庭疾患
頭が傾く(斜頸)、眼振(目が左右に揺れる)、運動失調、旋回運動等が症状として認められます。原因として中内耳炎、甲状腺機能低下症、腫瘍、ウィルス疾患、特発性(原因不明)等があります。原因の究明のためCT、MRIを使用します。
④脳炎
感染性と非感染性に分類できます。
感染性:ウィルス(ジステンパー、ヘルペス)、細菌、寄生虫等があります。
非感染性:肉芽腫性髄膜脳炎(GME)、壊死性髄膜脳炎(パグ脳炎 NME)等
脳炎の確定診断にはMRI、脳脊髄液検査が行われます。脳炎のタイプによっては予後が悪いことも多くあります。免疫を抑える、感染を抑える等を目的として投薬を行います。
⑤脳腫瘍
高齢(10才以上)で多く発生します。痙攣発作、運動失調、斜頸等の神経症状が多く、性格の変化はその中でも特に出やすい症状です。
脳腫瘍で一番多いものとして髄膜腫が挙げられます。CT検査にて判断をします。治療として、外科手術による摘出、放射線治療、化学療法、支持療法を組み合わせ、管理を行っていきます。
⑥椎間板ヘルニア
椎間板の一部が脊柱管内へ脱出(飛び出る)ことで脊髄が物理的に圧迫されることをいいます。圧迫により、疼痛や、圧迫部位より後ろに神経障害(後肢の麻痺や排尿・排便障害)を起こします。
椎間板ヘルニアは80%以上が胸腰椎で発生します(首にも発生します)。治療としてはグレードにより内科治療、外科治療、再生医療を検討していきます。なおグレード3以上は外科手術に依る圧迫の解除が推奨されています。当院では外科処置後積極的なリハビリ(水中トレッドミル)を行っております。
グレード分類 | 臨床症状 |
グレードⅠ | 疼痛のみ |
グレードⅡ | 不全麻痺 歩行は可能 |
グレードⅢ | 不全麻痺 歩行は不可能 |
グレードⅣ | 完全麻痺 自力排尿不可能 |
グレードⅤ | 完全麻痺 自力排尿不可能 深部痛覚消失 |