消化器外科について
当院では、食道,胃・十二指腸,小腸・大腸,肛門,肝臓,脾臓,胆道,膵臓といった消化器を専門とする外科チームがあります。一般的な消化器の病気というのは嘔吐や下痢ですが、消化器外科ではそれら嘔吐や下痢などを引き起こす可能性がある様々な病気を画像診断科や内視鏡外科と協力し合って診断および治療をしています。
最近では人間同様に犬や猫の消化器のがんも増えており(胃腺癌、GIST、消化管型リンパ腫など)、肝臓がんや胆管がん、さらには膵臓がんなども多くなってきています。当院では、腫瘍科や各診療科の獣医師らと協力しあいながら最適な治療方法をご提案しております。
消化器外科が担当する主な病気について
- ①各消化器のがん
- ②門脈体循環シャント
- ③胆嚢障害(胆嚢炎/胆管炎/胆嚢粘液嚢腫/胆石症/胆管閉塞)
- ④異物摘出
*以下に代表的な消化器疾患を挙げています。ご参照下さい。
①各消化器のがん
詳細は当院の腫瘍科のページをご参照下さい。 リンクはこちら>>
②門脈体循環シャント(原因/検査・診断/治療)
犬の門脈体循環シャント(PSS)とは、本来肝臓に入るべき胃腸からの血液が、「シャント」と呼ばれる異常な血管を経由して、解毒を受けないまま全身を巡ってしまい、様々な弊害を生み出すと同時に、肝臓が栄養失調に陥って小さく萎縮してしまいます。この状態を「門脈体循環シャント」といいます。またシャントのある犬では、肝臓でのアンモニアから尿素への代謝が低下し、血液中のアンモニア濃度が異常に高まる「高アンモニア血症」を引き起こしたり、窒素代謝異常のため血液中の尿酸濃度が異常に高まる「高尿酸血症」を起こします。結果として、代謝されなかったアンモニアと尿酸の尿中濃度が異常に増加し、おしっこの中に尿酸アンモニウムの結晶が現れたり、ひどいときには結石を作ることもあります。
先天性の門脈シャントを発症しやすい犬種が確認されています。ヨークシャーテリアは圧倒的に多く、ケアーンテリア、マルチーズ、ミニチュアシュナウザーなどが挙げられます。肝臓の外における肝外性シャントは小型犬で、肝臓の中における肝内性シャントは大型犬でよく起こることがわかっています。
↑ 黄緑色の血管が肝外シャント血管です。 | ↑ 手術前後の造影剤検査の動画です。 |
後天性のシャントの多くは、胃腸と肝臓とを結ぶ門脈の異常な血圧上昇が原因で発症します。基礎疾患として多いのは、慢性肝炎、胆管閉塞、肝線維症や肝硬変、門脈閉鎖、門脈弁の欠如などです。
治療法は、対症療法として具体的には、肝性脳症に対する輸液や投薬、腹水に対する利尿剤、尿石症に対する結石の除去、血液凝固異常に対する血小板の輸血など行われます。また外科的治療法としてシャント血管の結紮術が一般的に用いられますが、一度の結紮で終わらず、数カ月後に2度目の結紮を必要とする場合もあります。その判断になるのが手術と同時進行に行なう門脈圧の測定になり、結紮前と結紮後の門脈圧の経過を確認しながら、結紮方法を決定していくこととなります(セロハンテープ法も同様に)。
③胆嚢障害
胆嚢とは肝臓に囲まれている消化器の1つであり、胆嚢の中には胆汁という消化酵素が含まれています。胆嚢障害は、その胆嚢もしくは胆嚢周辺に存在する胆管などに障害が起きたことを指します。具体的には、胆泥症、胆嚢炎、胆管炎、胆嚢粘液嚢腫、胆石症、胆管閉塞などが挙げられます。
胆嚢障害の主な症状は、食欲不振、嘔吐や下痢、元気消失などが挙げられます。また、腹痛など痛みを生じるのも特徴的です。さらには、可視粘膜や口腔粘膜が黄色くなる黄疸といった胆嚢障害に特異的な症状も表れることもあります。
↑ 白い塊はすべて胆石です(CT画像)。 | ↑ 胆嚢粘液嚢腫の超音波画像です。 |
↑ 総胆管閉塞(胆石)による総胆管拡張。 | ↑ 総胆管閉塞の超音波検査動画です。 |
胆汁を外に放出する胆嚢管に目詰まりがあると、胆汁が胆嚢内に滞留して結石の原因になったりします(胆管閉塞)。目詰まりを起こす要因は、炎症(感染含む)、腫瘍、または外傷による管腔の狭窄などが挙げられます。
また胆嚢の下に位置し、総胆管の開口部(十二指腸)とも隣接している膵臓が炎症を起こしたりすると(膵炎など)、総胆管内に膵液が逆流したり、同時に十二指腸炎から総胆管に炎症を引き起こすことがあります(胆管炎)。総胆管の炎症が、さらに上にある胆嚢にまで及んでしまった状態が「胆嚢炎」です。その原因のほとんどが細菌感染菌であり、細菌性腸炎を引き起こすことで有名なカンピロバクターなどが挙げられます。
高齢の動物に最も多いのが、胆嚢内にある胆汁の質がドロドロになってしまう胆泥症やそれが慢性経過すると発生させてしまう胆石があります。胆石ができてしまった場合は、時として胆嚢の壁に壊死が起こって「壊死性胆嚢炎」に発展することもあります。また、胆泥症とは違うメカニズムで胆汁が濃縮されすぎて胆管を通過できず、胆嚢内に蓄積してしまうことを胆嚢粘液嚢腫といいます。その原因としては、甲状腺機能低下症、胆汁に粘り気を持たせる胆嚢腺の肥大、および先天的な脂質の代謝異常(ミニチュアシュナウザー・シェットランドシープドッグ)などが挙げられます。
治療法は、内科的および外科的治療に大別されます。内科的治療としては、胆汁を分泌するような薬(利胆剤)が投与されます(ウルソデオキシコール酸)。ただし、胆汁の通過路の中に目詰まりがない時に限り、仮に目詰まりしている状態が重度のときに利胆剤を使用すると、胆管閉塞を起こすこともあります。また外科的には胆嚢摘出を行なうことが一般的です。胆石や胆嚢炎など痛みを引き起こす胆嚢障害時の解決方法としては外科的切除が一番優れています。また当院では、CT検査を同時に行うことで、目詰まりしている場所(胆管閉塞の場合)を迅速に把握し、胆嚢摘出と同時に総胆管の目詰まりを解除することも行います(総胆管十二指腸フラッシュ術など)。
④異物摘出
生活環境のなかのものを偶発的に誤飲や誤食し、迅速に摘出しなければいけなくなった場合、具体的には腸閉塞を引き起こすもの、もしくは毒性のあるものの場合は、内視鏡などを用いて摘出することがあります。また内視鏡が届かない場所まで流れてしまい、かつ腸閉塞を起こしている場合は、開腹手術を行なうことがあります。 。
当院では、内視鏡下で摘出が可能な場合は、内視鏡外科と連携して手術を行っています。また開腹手術を行う場合は、迅速に異物を見つけるために手術の前にCT検査を行い、的確に異物の場所を見極め、迅速に手術を遂行できるように取り組んでおります。
↑ 白矢印が結腸内異物(CT画像)。 | ↑ 左画像と症例は同じ(超音波画像)。 |
上図で発見された異物は、牛の蹄(おやつ)でしたが、右の超音波画像では超音波と異物が反響しあい上手く抽出できませんでしたが、CT検査(左)だと鮮明かつ場所の特定も迅速に行えます。
↑ 線状異物により腸がグニャグニャに蛇行してしまっている(CT画像)。 | ↑ CT検査を行えば、胃の中で詰まっている異物を鮮明に抽出することができる。 |